前回の記事では、時間もお金も専属の営業スタッフもいない状態から、どのようにして新規営業活動を行い、受注確度の高い見込み顧客を獲得し、短期間で売上金額を伸ばせるようになったか?に関するアイデアを公開しました。今回の成功事例で注目頂きたいのは、”社内に存在する”あるポイントについて気付きを得られれば「今日から」営業活動を変えられるということです。それでは早速はじめていきましょう。
この記事でまとめていることは
■営業を変えるためには順序がある
大多数の中小企業は新規顧客開拓に真っ先に力を注ぐことが多いかと思います。もちろん、この活動は企業の生き残りをかけるための血肉となり、絶対に無視できないものでもあります。ところが新規だけを追い求めることは「非常にキケン」ということをお伝えしようと思います。
私自身は新規営業、新規開拓のためのプロモーション施策を考案し実行していくことが主な事業内容で、多くのクライアントも、それを期待しリクエストを頂くのですが、どのような業界業種の中小企業でも共通して、決まって最初にアドバイスすることがあります。それは、「闇雲に新規営業に手を着けてはならないということ」。そして次に、「社内にある資産、つまり長年集積してきた『既存の名刺顧客リストを有効活用』すること」です。
■休眠顧客フォローが売上直結する初めの施策
新規営業に取り組む前にまず実行したいことが既存休眠顧客へのフォロー施策です。まず、①社内に蓄積しているこれらのリストがきちんと管理されているか?そして、②定期的にコミュニケーションを取っており、関係構築ができているか?この2点のチェックをしてみてください。①②を見直すだけでも実は売上利益に直結できるアイデアを生み出すことができます。
現実、どのような企業でも、社内には既に多数の見込み顧客リストを持っているのですが、実情は「無かったこと」にされています。どういうことかと言いますと、苦労して集めた見込み顧客であるはずの名刺は社内でほとんど使われることのないまま、眠った名刺を持ち続けている状態なのです。
■展示会活用で営業体制を根本から変えたC社
東京ビッグサイトや幕張メッセで開催される展示会は新規開拓の大きなチャンスの場として積極的に出展を検討する社長経営者の方も多いと思います。展示会には、多くの経営者や、通常ではコンタクトが取りにくい決済権者が来場することから
とても重要なイベントに位置付けされるでしょう。
東京都でITシステム業を営むC社も、まさにこの展示会を新規開拓の格好の場として毎年出展をしていますが、近年では、出展ブースで獲得した名刺から売上利益につながるケースが大幅に減っていました。
夜遅くまで施工準備、チラシ制作を行い、展示会期間内も足が棒になるほど必死に来場者に呼びかけをして、やっとの思いで名刺交換ができたとしても、後日アポイントを取ると、答えは「NO」「今は必要としていません」「また機会があったらお願いします」という散々な結果に…。5名の少数精鋭の営業スタッフも積極的にアプローチを仕掛けていましたが、商談も取れない現実に直面し続けていたことから、展示会自体の出展に懐疑的な意見を持つ声が日に日に大きくなっていきました。
売上が増えないが名刺が増える一方‥
C社長は非常に深く悩んでいました。展示会には長年予算をしっかり取り、十分な準備を行ってきたのにも関わらず近年の来場者の反応が良くなく、名刺の数は集まってもそれが売上に結びついていかないのです。当初、C社長の考えでは、最近はWEB検索で競合他社のサービスや価格も全て比較され、それによってウチの製品は知名度と価格競争から負けてしまい、選ばれる機会が失われてしまった…と。もしそれが事実だとすれば、これ以上、展示会に出展してもコストの無駄になるため、次回以降からは取りやめることも検討し始めていました。
ところが、ここまでのお話の中で、C社は営業活動に取り組むにあたり大きなミスをしてしまっています。あなたの会社でもこのような状況に直面してはいないでしょうか?詳しく解説しましょう。
C社の致命的な3つのミス
1.すぐに受注に直結する顧客のみを追い続けていた
まずC社が気付けなかった1つ目のミスが、展示会出展の基本的な考え方についてです。展示会の来場者は情報収集を主な目的としており、出展ブースに立ち止まり営業スタッフの話を熱心に聞いているからといって今すぐ購入意欲のある見込み顧客になり得るとは限りません。しかし事実、ブースに立ち寄っているわけです。この来場者の心情・動向を間違えて読み取り、後で営業スタッフが訪問アポの連絡をしても良い返事がもらえずに「展示会は効果がない」と判断しています。
ところがこれは基本の考え方から見直すことが必要で、そもそも展示会の来場者は情報収集を目的にしているからこそ、来場者との最初のコンタクトのきっかけは「連絡先を交換する」ことまでをゴールとして設定するように考えてください。名刺交換をした=自社商品に興味があり購入意欲が高い、と安直に判断せずに、連絡が取れる機会を頂けた、というところまでを必達することが大きなポイントです。
2.直後の訪問アポで興味が無さそうであれば、フォローはしなかった
C社は展示会出展後1週間以内には名刺獲得ができた見込み顧客へアプローチをかけています。この迅速な対応は良いのですが、初回の商談内で相手があまり興味を示さなかったり、商品に対する質問がなかったり、一通り商品説明を聞いて後日検討する…ということであれば、この目の前の相手は自社の見込み顧客では無いと営業スタッフ自身で判断してしまい、その後はほぼ全くと言っていいほどフォローの連絡はしませんでした。
辛うじて連絡を取るのは、年に1回か2回程度の一斉メールで、何か新商品が出たタイミングやイベント、セミナーがある時に慌てて机の中から名刺を引っ張り出してみる。当然ながら相手からの返信はなく、初回の面談からは一切コンタクトができない状態になってしまっています。これも要改善ポイントで、一度面会した見込み顧客との関係性を切らさない十分なフォロー体制を作ることが重要になってきます。
3.集めた名刺を使う機会はなく、社内に眠った顧客リストが増え続けた
1.2.のように、今すぐ客だけを追い求め、興味関心が無さそうであれば次の顧客へ、ということを繰り返し続けると、展示会で苦労して集めた名刺の多くは、二度と使われることなく、各々営業スタッフの机の中に埃をかぶって眠っている状態になります。これでは社内には展示会に出展する度に、「二度と活用することのない名刺」が大量に蓄積する一方です。
これら3つの致命的なミスによりC社では自ら非常に勿体ない状況を作り出してしまっていました。実は、今までに蓄積してきた大量の名刺こそが売上利益に大きく直結するにも関わらず、です。さらに社内の営業体制を見直す、というステージにも行き着くもできず、展示会出展の成果はほとんど得ることができていなかったとC社長は語ります。
そこで展示会出展の目的を根本的に見直し、新たな営業体制を作り上げたのが名付けて「ブリッジ戦略」です。今までの営業活動を振り返り分析してみると、展示会で名刺獲得→各営業マンへバトンタッチ→テレアポで商品説明の場作り→具体的商談→クロージングという流れを取っていました。しかし、このフローには大きな欠点があり、<名刺交換をした来場者側の状況を全く把握していない>ということが如実に分かってきました。
展示会来場者の多くは今すぐ商品・サービスを購入したいというレベルではないのにも関わらず、名刺交換をした全ての来場者に対し、とにかく商品の良さを伝えることに必死で、悩みや不安を全く理解せずに、営業活動を進めようとしていたのです。この分析により、来場者と営業マンの間には大きな深い溝があることが分かり、ここに"頑丈な橋"=ブリッジを架けることに注目しました。そこで次回の展示会出展では、この5つの施策を行うことにしました。
■「ブリッジ戦略」で実施した5つの施策(図①)
1.展示ブースには商品をあえて出さずに見込み顧客の悩みに沿ったミニセミナーを開催。
2.来場者から名刺獲得したら来場お礼は徹底する。
3.来場お礼は一斉メールで済ませるのではなく、お手紙として郵送DMを利用する。
4.来場者の不安や課題を事前分析して、解決に導けるノウハウ、ヒントをまとめた特別レポートを来場特典として提供する。
5.直後にセールスアポイントを一切行わず、メルマガ、動画、郵送DMを3カ月継続して提供し関係性を育む。
つまり、今までは、【名刺獲得=営業先の確保】と、していたところを、【名刺獲得=来場者との「関係性」を作り出す小さなきっかけ作り】へ、考え方を変えることにしました。名刺交換をしてから1週間~1カ月~2カ月~3カ月…と予めスケジュールを立てて、特別レポートの提供、動画配信、メルマガ、個別相談会、アドバイスサポートを組みながら来場者とのコミュニケーションを徐々に増やしていきました。
図①
さらなる秘策を始動 眠る名刺を再復活!
6.今まで社内に眠っていた大量の名刺リストにも同時に配信を行う。
このプロジェクトはもう1つの施策を同時に進行させました。それが当初気付けなかった、対応できなかった、「社内に大量に眠る名刺リストの有効利用」です。今までに苦労して集めてきた名刺リストを復活させるタイミングとして今回の展示会出展を活用することにしました。この施策の内容は、非常にシンプルで売り込みを行わないアプローチを徹底して続け、相手の小さなアクションを見逃さないということです。具体的な施策項目は次の通りです。
①新規リストとは分けた状態でメルマガ配信を行う
②展示会前10日前から売り込みのない情報を提供する
③展示会で限定セミナーの開催と特典配布の告知をする
④展示会期間中に「今セミナーを開催中」というライブ配信をお届けする
⑤展示会終了後もミニセミナー動画を公開する
⑥新規リストと同じく3カ月継続してノウハウを提供する
このように売り込みではない内容を定期的に訴求し期待感を持たせること、展示会期間中にも配信を行いライブ感を出して動きを見せること、終了後も関係性が育めるよう様々なコンテンツを提供していくこと。このようなプロモーション設計のもとにに施策を実行しました。(図②)
図②
するとどうでしょう。見込み客への橋渡しに注目していった結果、成約率は、3.5倍。展示会出展から直結した売上金額は半年以内に5倍。…という成果が生まれました。名刺獲得をしてすぐに営業電話をかけていた過去と、名刺獲得をして、見込み客が常日頃から抱えている問題課題につながるような情報やノウハウを継続して提供していった現在と、全く異なる成果が生まれたのです。この間、テレアポ営業を行うことなく、商品説明をこちらから行うことなく、見込み顧客からの前向きで積極的なアクションを頂いて、このような結果を得ることができました。
C社は展示会でのマンネリ化していた状態を打破して、見込み客獲得、社内に眠っていた顧客リストを生かすことで受注レベルを引き上げ、成約数を増やすことができました。このアイデアを踏まえて、あなたの会社ではどんな改善ができるか考えてみましょう。